静かな湖面に、何隻もの小型船が浮かぶ。目を凝らすと、胸まで水に漬かり、長いさおを動かす姿も見える。
日本海に面した松江市と出雲市(島根県)にまたがる宍道湖は、淡水と海水が混ざる汽水湖。国際的に貴重な湿地を守るラムサール条約にも登録され、多様な動植物が生息する。中でもヤマトシジミは、日本一の漁獲量を誇る。
午前十時、漁を終えた入江栄さん(54)=松江市=が、宍道湖につながる大橋川の船上で選別を始めた。「少しずつ採れるようになってきたかな」。日に焼けた顔をほころばせる。
シジミ漁は、鋤簾(じょれん)と呼ばれるかごで湖底をかく。かごの目幅は小さな貝が落ちるよう十一ミリ。船上でも選別し、小さな貝や一日当たりの漁獲量として定められた九十キロを超えた分は湖に戻す。
漁法は、船上で鋤簾を操る「手がき」、船を走らせて鋤簾をひく「機械がき」、水に入ってひく「入りがき」の三種類。入江さんは、宍道湖でシジミ漁をする約三百人の中でも数少ない、入りがき漁の漁師。手がきより水揚げは多いが、四時間も水の中を歩き回る重労働だ。
以前は、二時間で規定量を採ったときもあったが近年、シジミが減少。特に今冬は、四十キロほどしか採れない日が続いた。資源保護のため宍道湖漁協は昨夏、休漁日を週三日から四日に増やした。
「シジミ漁は、湖の環境保全に大きく役立っている」。島根県の水産試験場で長年、調査研究に携わり、「シジミ博士」として知られる日本シジミ研究所長の中村幹雄さん(70)は、シジミや漁を守る大切さを説く。シジミは、窒素やリンを取り込んで異常繁殖する植物プランクトンを餌とする。漁は、窒素やリンを効率的に取り除くことにつながる。
中村さんによると、シジミは一年中採れるが、産卵前の五~七月のものは、身が大きく特においしいという。砂出しは、水一リットルに食塩十グラムを入れるのがこつ。シジミは体内の浸透圧を周囲の水と同じにしようと、アミノ酸のアラニンといったうま味成分を増やす。冷凍すると、肝機能を保つといわれるオルニチンも増え、一年中、栄養豊富なシジミが味わえる。 (境田未緒)(東京)
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